Last updated on July 26, 2018

シラトリシャジン - 白鳥沙参

Adenophora uryuensis Miyabe et Tatew.

シラトリシャジン全体

北海道北部の蛇紋岩地に固有のシラトリシャジン

Canon EOS6D + COSINA Carl Zeiss Planar T* 1,4/50
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン全体

スッと直立して高さは膝丈に満たない程度でしたが環境で異なるようです

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン花

何と言っても裂片が大きく開出する花冠が文句なしに美しい!

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン花

これは花冠の色がやや薄い…花柱は花冠より突き出さない傾向

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン花

花冠裂片が4裂している個体もありました

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
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シラトリシャジン萼片

萼片は卵形でモイワシャジンより優しげな印象…花期が進むにつれて開出するようです

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
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シラトリシャジン葉

葉は互生することが多いようですが対生や輪生も見られます

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
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シラトリシャジン葉

葉には鋸歯があり概ね披針形で質は厚め

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン葉

線形に近い葉も多く見られました

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

シラトリシャジン全体

何度も見に行きたくなるほど魅力的な花でした

Canon EOS6D + EF100mm F2.8L MACRO IS USM
Fukagawa City in Last July, 2018

白鳥沙参 - シラトリシャジン

- キキョウ科 ツリガネニンジン属 -

環境省RL(2017) 絶滅危惧II類(VU)

北海道RDB(2001) 希少種(R)

一度その姿を目にしたならば、あなたも間違いなくお気に入り植物の一つに数えるでしょう。日本に分布するツリガネニンジン属において…いや、キキョウ科においてでさえ、美しさは最上位と言っても過言ではないシラトリシャジン Adenophora uryuensis。ただし、北海道北部の超塩基性岩地という非常に限定された環境へ出向かなければ対面することができない固有種です。一見すると華奢な印象を抱きますが、実際に触れてみると葉は硬く、茎も意外としっかりしています。このような形質の獲得が一助となり、超塩基性岩地という植物の生育が厳しい環境において、現在に至るまで生き残ることができたのでしょうか。

過去には モイワシャジン A. pereskiifolia と同一種、あるいはその変種、さらにはユーラシア大陸に分布する A. pereskiifoliaA. polyantha と同種とされるなど、分類学的には研究者により見解の相違がありました。しかし、モイワシャジンとは染色体数が異なり、シラトリシャジンは ツリガネニンジン A. triphylla var. japonica と同じ 2n=34 の二倍体 (ツリガネニンジン属の基本染色体数は17) ですが、モイワシャジンは 2n=68 の四倍体。さらに形態的にも、モイワシャジンや本州産ヒメシャジン A. nikoensis 及び大陸産の種とは明確に区別できることから、現在は独立種として扱われることが主流です。

その形態ですが、確かにモイワシャジンと似ています。ただし、植物を見慣れている方であれば、容易にこれは違う!という “嗅覚” が働く以上に異なっていす。5裂する花冠裂片は深く切れ込む上に大きく開くので、より華やかさが感じられ、花柱が花冠からあまり突き出さない姿は、シラトリシャジンの一つの傾向と考えられます。実際に花冠長に対する花冠筒部長及び花柱長の比は、モイワシャジンと有意に異なるようです。葉はほぼ柄がなく、披針形から線形でやや突起状の鋸歯があり、強いて例えるなら サワギキョウ Lobelia sessilifolia の葉をさらに細くしたイメージでしょうか。概ね互生していますが、特に節間が狭くなる茎の上部では対生あるいは輪生と言っても差し支えない部分があります。草丈は1m 近い個体群もあれば、膝丈に及ばない個体群もありました。これは同じ超塩基性岩地でも、例えば谷筋と稜線上のような生育環境による違いではないかと思われます。モイワシャジンでも同様の違いがよく見られますね。

私事ですが、植物に興味を持つようになり初めて買い求めた図鑑である、梅沢俊さん (当時は梅澤俊と表記されていた) の『野外見分け図鑑 北海道の高山植物』でこのシラトリシャジンを知ってから、一度は見てみたい花の一つでした。ようやくその願いが叶ったのですが、自生地と見定めた場所へ至る道中でスズメバチの大群に車を取り囲まれ、現地付近ではヒグマの真新しく凄まじい掘り返しを目の当たりにし、シラトリシャジンを見つけて程なく局地的豪雨に見舞われ這々の態で退却した経験は、ただでさえこのような美しい植物に出会えた記憶にさらなる “上書き” が得られたことで、間違いなく生涯忘れ難い思い出となるでしょう。それにもかかわらず、すでに再び見に行きたいという衝動が抑えきれない、魔性の魅力を秘めた花なのです。

【 参考文献 】

Hinoma, A. 2007. FLORA OF HOKKAIDO - Distribution Maps of Vascular Plants in HOKKAIDO, JAPAN.
[ http://abies.s16.coreserver.jp/maps/plants/m9274.gif ] (accessed June 29, 2018).

堀江健二 (2000)「北海道・超塩基性岩植物の分布」植物地理・分類研究 48(1), pp.79-85, 植物地理・分類学会.

堀江健二 (2010)「北海道の超塩基性岩植物」北方山草 27, pp.5-11, 北方山草会.

Kitamura, S. and G. Murata. 1957. New Names and New Conceptions adopted in our Coloured Illustrations of Herbaceous Plants of Japan (Sympetalae). Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 17(1): 5-13. doi.org/10.18942/bunruichiri.KJ00001077756

Miyabe, K. and M. Tatewaki. 1935. Contributions to the Flora of Northern Japan VI. Transactions of the Sapporo Natural History Society 14(2): 69-86. hdl.handle.net/2115/64167

野坂志郎 (1990)「北海道低地の超塩基性岩地の植生(2)」北方山草 9, pp.13-16, 北方山草会.

岡崎純子 (1988)「ヒメシャジン群の分類学的研究 I. シラトリシャジンについて」植物分類・地理 39(1-3), pp.94-104, 日本植物分類学会. doi.org/10.18942/bunruichiri.KJ00002594220

佐々木純一 (2010)「雨竜蛇紋岩地帯の植物 大ヌップ川林道観察記」北方山草 27, pp.31-37, 北方山草会.

佐藤謙 (2016)「北海道低標高地の超塩基性岩地植生 (1)」旭川市北邦野草園研究報告 4, pp.21-48, 旭川市北邦野草園.

清水建美・岡崎純子 (1982)「日本産ツリガネニンジン属植物の研究 II. 染色体数概観と花粉粒の調査」植物分類・地理 33, pp.328-335, 日本植物分類学会. doi.org/10.18942/bunruichiri.KJ00001079180

梅澤俊 (2001)『野外見分け図鑑 北海道の高山植物』p.181, 北海道新聞社.

梅沢俊 (2001)『北海道 夏〜秋の花 絵とき検索表』p.29, エコ・ネットワーク.

梅沢俊 (2017)『新北海道の花』p.298, 北海道大学出版会.

梅沢俊 (2018)『北海道の草花』p.321, 北海道新聞社.

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